私たちの想像をはるかに超える微生物の世界。クラッシュ(ブドウ破砕)シーズン後のワイナリーでは、どんな事が起きているのでしょうか?

ブドウは破砕されると酵母が息づく主発酵により、糖分がアルコール発酵をします。これに続いて起こるのが“マロラクティック発酵”です。これは、ワインのリンゴ酸が乳酸に変わるプロセスです。

ブドウ由来のリンゴ酸は本来、味がシャープな酸で、低温下では爽やかに美味しく感じます。これが“マロラクティック発酵”により、チーズなどの乳製品がもつ、味に丸みのある乳酸に変わり、高温下では膨らみとともに美味しい風味をワインにもたらします。その上、乳酸は、ワインを安定させる効果もあり、樽や壜の中の長い熟成では必須成分となります。また乳酸菌は、他に様々な成分を生む性質もあり、ワインに、より奥深い高級感を与えてくれます。

カリフォルニアのワインメーカーは、原料のブドウを見極めながら、酵母や乳酸菌などの目線に立ち、日々変貌するワインとゆっくりと対話して完成度の高い製品を作り上げていきます。

“マロラクティック発酵”を経てできたボリューム感のある果実とボディに支えられたカリフォルニアワイン。それは、乳酸を豊富に含む肉や魚介などの食材や、醤油や味噌など日本の発酵文化が生む乳酸系調味料との相性が抜群です。

年末から年始の贅沢なテーブルを彩る、霜降りの牛肉や豚ロース、脂ののったブリを用いた温かい和食。酵母と乳酸菌の共演が育んだ、カリフォルニアの芳醇なシャルドネ、ピノ・ノワール、メルロー、またはジンファンデルなどのワインで寄り添うのは如何でしょうか?

●文:川邉久之(ワイン醸造技術管理士)