数々の偶然と歴史が生んだワインの樽発酵。

遥か昔、“森の民” と呼ばれたガリア人は、ブルゴーニュの森のオークで樽を造りました。そして、フランス革命により細かく区分されたブドウ畑では、収穫量が少なくなったため小さな樽で発酵させ、それらを集め合わせてワインを造るようになりました。すると、樽ごとに異なるワインの特徴が織り重なり、パイプオルガンの音色のような層の厚い風味をもたらしました。

樽の中でゆっくりとジュースからワインに仕上がるため、ワインとオークの風味が絶妙に融け合います。そして、この樽との相性が最も良い白ワイン品種がシャルドネです。

カリフォルニアの醸造家は、豊かな太陽と寒暖の差が育む、果実感が凝縮したシャルドネへの恩恵を最大限に活かします。ワインのボリュームと、新しい樽が放つ柔らかなバニラやトースト香を思わせる風味をバランスする技法を、ブルゴーニュが培った樽発酵から編み出しました。

そのひとつがシュール・リー製法。発酵後の酵母を樽に残して熟成中のワインと触れさせます。バトン(Bâton=棒)で時おり酵母を攪拌するバトナージュと呼ばれる作業により、酵母は舞うように浮遊してワインを曇らせ、旨味を与え、三次元的な奥行きのある質感が整います。

「単なる容器だった樽」は、「芳醇なオークの風味としての樽」という新たなプレーヤーとなり、 ブドウと樽と醸造家による三重奏を奏でます。ボリューム感溢れるカリフォルニアのシャルドネは、この地が生んだ世界に誇れるスタイルと言えるでしょう。

多くのワインラバーをうならせる、樽の風味が絶妙にバランスしたカリフォルニアのシャルドネは、シンプルな魚介類から、鶏や豚、さらには脂ののった霜降りの和牛まで合わせられる、懐の大きいワインです。 今宵は、カリフォルニアのシャルドネで素敵な時間をお過ごしください。

●文:川邉久之 (ワイン醸造技術管理士)