静寂が漂う収穫後のブドウ畑では、樹が葉を落とし眠りに入る前に「ポスト・ハーベスト・ヴィンヤード・ケア」という、樹のお手入れ作業が行われます。

まず、ヴィティカルチャリスト(ブドウ栽培技師)が、葉の色や枝の生え方からブドウの健康状態を診断し、病気が重症の樹を直ちに抜根します(※)。ブドウは、様々な病気と闘いながら育ちます。しかし、中には闘いに敗れる樹も僅かにあります。この病気から畑を守るため、春先に感染した樹は健全な苗に植替えられ、新しい命へとバトンを渡します。

▲ウイルスに冒されたブドウを抜根して頭上にかざす畑の労働者

収穫によって、ブドウの樹は子供を産む母親のように大量の養分と水を失います。その為、収穫されたブドウの量に応じた肥料と水を補う必要があります。 

また、この時期に欠かせないのが、樹木の消毒作業です。越冬する前に、ブドウの天敵となる虫や微生物を少なく抑えれば、年間のトータルの消毒回数を減らせるメリットがあり、昨今のサステイナブルな農法では不可欠な取組みです。 栽培学という科学を知るほどに、ブドウと人間の仕組みが似ている事に気付かされます。カリフォルニアのワイングローワーは自然の賜物であるブドウに感謝を込め、収穫後も自らの分身のように、骨身を惜しまず丁寧に世話をします。その姿勢が毎年のワインを美味しくするのです。

アメリカの11月は、収穫をお祝いして家族が一同に集う大切な行事、サンクスギビング(感謝祭)がある月です。皆様も素敵な料理とカリフォルニアワインをお供に、ご家族と最高のひと時をお過ごしください。

●文:川邉久之(ワイン醸造技術管理士)