カリフォルニアで主に赤ワインになる黒ブドウ品種の中で、カベルネ・ソーヴィニヨンに次ぐ人気を誇るのがピノ・ノワールです。過去15年、同州で急激に栽培面積が伸びた赤丸急上昇株で、いまいちばん「キテる」ブドウだと言えるでしょう。前回ご紹介したカベルネと同じく、原産国はフランスで、かの国ではカベルネ、ピノが甲乙つけがたいツー・トップという位置づけです。

イギリス人ワイン評論家の大御所に、ヒュー・ジョンソン先生という人がいるのですが、かつてこの二大品種を評して、「カベルネが理性に訴えるのに対し、ピノは官能に訴える」と書きました。筆者の友人の、いかにもギョーカイな感じの軽薄テレビマンはかつて、「お目当ての女性を口説くときには、ピノ・ノワールを飲ませるに限る」と言いました。独特のムンムンとした色気が、このブドウから出来た赤ワインにはあるんです。

その香りには、ラズベリーやイチゴといった赤いフルーツがふんだんに感じられます。渋味はおだやかで、酸味が強めなのが特徴です。シルクのような舌ざわりで、飲み込んだあと口の中に漂う芳しき香味は、うっとり遠い目になってしまうほど。ロマンチックな夜にふさわしいブドウ品種です。

 

●文:立花峰夫
●写真:色変わり中のピノの房。一週間ほどで青紫になる。