吐息が白くなるほど凛と冷え込む1月のカリフォルニア。冬のブドウ畑では、無駄な枝を切り落として風通しをよくし、樹木全体を整え、養分を十分に行きわたらせる「剪定」作業に入ります。
初夏から秋にかけて、枝には新たなブドウを実らせる蕾がたくさん誕生し、数が多ければ多いほど多く収穫できると勘違いしてしまいそうです。しかし、枝を切り戻して蕾の数と位置をバランスよく揃える事ではじめて、品質の高いブドウを収穫することができるのです。
収穫が躍動の太陽なら、剪定は静かに蔭る月に例える事ができるでしょう。 厳しい寒さの中、葉が落ちた樹木の一枝一枝を、熟練した栽培者が剪定ばさみを手にして丁寧に切り戻します。
始めと終わりを整えて一貫させることを始末といいますが、「剪定に始まり、剪定に終わる」というほど、ブドウの量と質、さらには、その樹の未来までもが決まります。この最も感性が求められる剪定は、もはや「自然を相手にしたアートであり、自然を紡ぐ彫刻」と言われるほど、ワイン造りにとって重要な仕事なのです。
剪定で落とされたブドウの枝は、畑に感謝をしながら燃やし、浄化して土に返します。また、時には、BBQや暖炉、燻製用のチップとして再利用することもあります。美しい彩の火を眺め、至上のワインを味わう。カリフォルニアワインは、そんな自然のサイクルの中で丁寧に造られています。
●文:川邉久之(ワイン醸造技術管理士)