ランチ時は行列の絶えない町中華の名店の隣にひっそりと佇む、しゃれた外観の小さな店。ドアの向こうには、8席だけの大理石のカウンターで、じっくりワインと向き合える贅沢な空間があります。この2店は奥で繋がっていて、ワインバーでありながら出来立ての中華も楽しめるという欲張りな願望を満たしてくれるユニークなスポットです。

中華店にもカジュアルなワインはありますが、こちらはワインにフォーカスした店なので、ボトルは約1万円からのプレミアムクラスが常時300種類以上。一方、グラスワインは1,000円からの価格帯のものが10種類前後。毎年4月~5月はバイザグラスプロモーションに合わせてカリフォルニアが揃いますが、その他はマンスリーでテーマが変わります。

中華料理は一品4人前が基本のところ、ハーフサイズ対応ありなので、ワインも料理も好きな物をあれこれ選んで組み合わせる楽しみが。考えるのが面倒、あるいは新たな発見を求める人には、ソムリエに判断を委ねて幸せになれるペアリングコースも。

「毎月変わるバイザグラスワインとのペアリングを楽しみにご来店するお客様が、その場で次回の予約を入れて行かれます」。数か月先まで埋まってしまう予約の取れない店になる秘密は、ここにありました。

お勧めのペアリングや、店舗情報詳細については、写真ごとのキャプションをご覧ください。

写真手前から
🍷パルメイヤー・メルロ ナパ・ヴァレー×回鍋肉(ホイコーロー)
ブラックベリーやハーブなどが凝縮したこのワインのフレーバーと、京都のさくら味噌をベースとした自家製甜麺醤のダークチョコレート感のある上品な甘さとの相性は抜群。濃厚でコクの豊かなこの料理に、ボルドーは繊細過ぎて負けてしまうけれど、カリフォルニアのメルロのストラクチャーは、ちょうど良いのだそうです。

🍷シェーファー・レッド・ショルダー・ランチ・シャルドネ×棒棒鶏(バンバンジー)
カリフォルニアのシャルドネならではのボリューム感と樽の香り、胡麻だれのクリーミーさと香ばしさとのバランスが絶妙です。胡麻だれには意外に多くの酢が使われていて、マロラクティック発酵をせずフレッシュな酸が活き活きとしたこのワインを楽しむには、最適の冷菜です。

オーナーソムリエの寺田泰行さん。町で人気の中華店を長年切り盛りするワイン好きの父の背中を見て育ちました。2007年にホテル・ニューオータニに入社、トゥール・ダルジャン東京でソムリエを務めるも、腰を痛めた父を心配して2018年に退職。家業を継ぐだけでなく、前職での経験を活かしたこの店を始めました。

寺田さんの高祖父にあたる三代目の新次郎がフルーツショップ、つまり水菓子屋を創業し、曽祖父がイートインコーナーとして甘味処を。それを父の代になって中華に転換。水菓子屋の新業態であることと、創業者の名前からの一文字を取って水新菜館に。この店の“離れ”としてのワインバーの店名には、中国語で赤ワインを意味する紅酒の紅(Hóng)を付けました。壁一枚隔てた向こう側の賑わいとは別世界でありながら、時の流れや人と人の繋がりを感じさせる特別な居心地のお店です。

水新はなれ 紅(ホン)
東京都台東区浅草橋2-1-1
営業日と営業時間は公式ウェブサイトをご確認下さい。
TEL:03-5839-2077
https://mizushin-saikan.com/

文:近藤さをり
写真:小松勇二